ヒグマ春夫の映像パラダイムシフトVol.10

Visual Paradigm shif Vol.10 of Haruo Higum

「光の三原色」空気をけずる

2009年3月10日
会場:キッド・アイラック・アート・ホール
solo・ヒグマ春夫

映像パラダイムシフトVol.10より

報告:宮田徹也(日本近代美術思想史研究)

正面の壁に白いスクリーンが貼られている。対峙する壁にプロジェクターと据え置きのビデオカメラが設置されている。床には、直径1.5m程の三つの円い紗幕が二重に折りたたまれ、正三角を形作るようにしてその同型の白い紙の上に置かれている。円の紗幕の上には、縁のない紗幕がまとめられている。
ビートの強い音が流れ、公演が始まる。スクリーンにはヒグマの眼の表面の写真が映り、続いて七色のカラーバーが重なり、七つの矩形は左から右へ点滅する。
上部から赤、緑、青の光が円い紗幕を照らす。ヒグマは膝を折り、両掌を紗幕の上に揺るがせ、縁のない紗幕の一片を抓み、両手で上に掲げる。映像は赤い眼の写真を映し出す。光は赤のみから直ぐに三色に変化する。紗幕を持ったヒグマはスクリーンに近づいていく。
映像の眼は紫となり、黄色いエフェクトがかかる。ライトは赤のみから直ぐに三色に変化する。ヒグマは紗幕を広げていく。
縁のない紗幕を床に置いたヒグマは、円の紗幕を一つ手に持ち水平に掲げ、スクリーンに並行するように翳す。紗幕の縁には砂が入っているのか、動かすと音が聴こえてくる。正面の壁左に円の紗幕を立掛ける。
ヒグマは円の紗幕を左右に二つ持ち、三重のスクリーンを形成する。写真を加工した黄色い人物像と青と緑の背景が映像として映し出され、ストロボのように点滅する。
ヒグマは円の紗幕の一つを床に置き、もう一つを持ったままスクリーンに近づいては遠のく。映像の右側には黄色い人物像、左側には花にも球根にも見える赤い像が映し出される。プロジェクターに円の紗幕を近づけ、置く。
ヒグマは再び円の紗幕を手に取りスクリーン左側で平行、垂直と翳していく。光は三色を二つずつ投下していく。映像はエフェクトなしの眼の写真となる。
ヒグマは円の紗幕を置き、異なる円の紗幕に手を伸ばす。映像はヒグマの顔を正面からとらえたモノトーンの写真に紫のエフェクトが掛けられ、点滅する。両手を広げて円の紗幕の縁を掴み、屈み、紗幕の後方に隠れる。
膝を伸ばし、スクリーンから外れ、円の紗幕を床に置く。最後の円の紗幕に手をかける。中央の紙の上に乗り、円の紗幕をスクリーンに対して垂直にすると光は青3、赤2、緑2と変化する。
円の紗幕を水平にし、ゆっくりと回し続ける。光はそれぞれ3つずつ点灯する。映像のヒグマの顔写真に赤、緑のエフェクトが加わり、直ぐに赤いエフェクトの眼の写真に替わる。光はそれぞれ一つずつになる。
紙にはヒグマの黒い影ではなく、青、赤、緑のそれが映り込んでいる。スクリーンの眼には赤いエフェクトが施される。
ヒグマは映像を、フェードバック操作されたライブに切り替える。光は赤のみ、青のみと素早く入れ替わる。ヒグマは右掌を水平にして映像に映しこむ。音はリズムからミニマルな展開となる。
ヒグマは両掌を水平にして白い紙に上り、左足一本で立ち、左右に揺らめく。バランスを失い着地し、縁のない紗幕を広げ、スクリーンに近づき、縁のない紗幕を落とし、壁面に立て掛けておいた円の紗幕を手に取り、翳す。光は赤と青、赤のみと速いテンポで入れ替わる。
ヒグマは中央で膝を折り、紗幕を回し、同じ大きさの円い紗幕を二枚重ね、立ち上がり、丸い紗幕を紙に向けて翳すと映像が映りこみ、スクリーンに投影される。
ヒグマは、床に円い紗幕の一部をつけて回す。三つの丸い紗幕の面が重ならないように持ち上げ、ゆっくりと靡かせる。そのまま床に置き、円い紗幕を自立させる。映像は、ライブから桃色と黄色が点滅する抽象的世界に変化する。
円の紗幕の自立は崩れる。ヒグマが円の紗幕を広げると、その形は馬の鞍型となる。映像は青色と白色のフラッシュから、桃色と白色のストロボになる。
ヒグマは馬の鞍型の紗幕を一つ、大きく掲げ、床に置く。光はそれぞれ三つずつ、青のみと変化していく。映像は桃色と緑色のフラッシュである。ヒグマは座り、手前の馬の鞍型の紗幕を揺する。
映像は、フェードバック操作されたライブに切り替わる。光はそれぞれ一つずつから、異なる角度のそれに蠢く。ヒグマは、馬の鞍型の紗幕を移動させる。光はそれぞれの色が点滅しては消尽する。
ヒグマは馬の鞍型の紗幕の一つを持ち上げ揺らめかせ、鞍の型を破壊するように捻る。音のリズムが強くなる。光は激しく点滅する。 床に置かれた馬の鞍型の紗幕に、光が干渉する。映像はカラーバーとなり、薄らと消えていく。光は変化し続ける。
ヒグマがプロジェクターを閉じると暗転が訪れ、50分の公演は終了する。


映像パラダイムシフトVol.10より

平石博一のミニマルともアンビエントとも言えない複雑な音のリズムとテンポが会場を支配し、坂本明浩が生み出す照明の時間軸に近づきは離れ、床置きの白い紙をスクリーンとして認識させた。このゲストとヒグマが創り出す公演には、スクリーンにも紗幕にも色にも光にも影にも空間にも、ヒグマ自身にも実体を見出すことが無かった。

照明:坂本明浩
撮影:川上直行