ヒグマ春夫の映像パラダイムシフトVol.29

Visual Paradigm shif Vol.29 of Haruo Higum

不可思議な映像が横に投影される

2011年6月27日
会場:キッド・アイラック・アート・ホール
solo・ヒグマ春夫

映像パラダイムシフトVol.29より

報告:宮田徹也(日本近代美術思想史研究)

等身大の人型に刳り貫かれたスクリーンの2枚は床に置かれ、1枚は正面の壁面に貼られている。床の2枚の手の部分に糸が絡み、天井へ伸びている。スクリーンと同じ素材の幅40cmはある折鶴が、舞台左右に置かれている。
正面に六本の波線がうねり、消えていく。画面中央に唇を強調したヒグマの顔のモノクロ写真がクローズ・アップされ、静かな電子音が響き渡る。写真の髭にはCGによるカラー・エフェクトが施されている。今回の写真はほとんどこの効果が為されている。
アメイジング・グレイスが流れ、ヒグマが横のプロジェクターを開けると、プロジェクター付近に設置された小型カメラがとらえるライブ映像が投影される。画面にカメラが向けられているので、自ずとフィードバック効果が生じる。
波線のCGが再度正面に投影される。口を強調したヒグマの顔の写真が迫ってくる。水と掌の実写動画に変化する。口を閉じたヒグマの写真へ素早く入れ替わる。ヒグマが舞台に登場し、片方の折鶴を両手で持つ。その様子を、小型カメラがとらえる。
正面には、右頬を強調したヒグマの顔の写真がクローズ・アップされる。ヒグマは折鶴を両手で持ち上げ、膝を伸ばすと小型カメラから外れていく。正面は河川の実写動画、唇を強調したヒグマの顔と変化する。
ヒグマは折鶴を水平に保ち、正面の映像を右から左へゆっくりと横切っていく。軽快ながらも静謐な電子音が緩やかに流れる。正面の映像は波と掌の実写動画の二層から、唇を強調したヒグマの顔へと変化する。
ヒグマは折鶴を水平に保ちながら上下させ続ける。正面は樹木、河川、足の実写動画と変化を続ける。ヒグマは左へ到達すると、左折して歩み続ける。すると横の映像とヒグマの実体が並ぶ状態となる。
ヒグマは来た道を引き返す。正面には浜辺に立つ木村愛子の実写動画と、サイケデリックなエフェクトが施された木村のシルエットが重なって投影される。曲が止まり、波の音が響き渡る。
ヒグマは折鶴を掲げてこちらを向く。五線譜的電子音が流れる。正面にはまた別の浜辺で撮影された木村の実写動画とシルエットが二重に投じられる。ヒグマは中央に進み、横の映像に映りこんでいく。
ミドルテンポの電子音が流れる。正面には木村が踊る写真、波の実写動画、マーブルのCGの静止画へと展開していく。ヒグマは折鶴を元の位置へ戻して手持の小型カメラに映像を切り替え、折鶴をアップで映したかと思うと引いて俯瞰的にとらえる。
スローな曲が流れる。正面には、波の実写映像とモノクロの波の写真が同時に流れている。ヒグマはゆっくりとカメラを動かしながら、歩を進めていく。正面の波のCGの動画に、小窓が二つ浮かび上がる。共に異なる浜辺での、木村のダンスの実写動画が流れていく。

映像パラダイムシフトVol.29より

ヒグマは左側に立ち、客席を小型カメラで映していく。柔らかい曲が流れる。ヒグマはプロジェクターの光を小型カメラでとらえると、不可思議な映像が横に投影されることとなる。正面では木村の独特のダンスが続く。
ヒグマは右手でカメラを持ち、左指先でプロジェクターの光を遮り、コントロールする。正面の映像のバックは海、移動する風景と変化していく。ヒグマは再び折鶴を抱え、正面中央に立つ。カメラは折鶴の影をとらえている。
ピアノ曲が流れる。ヒグマは右へ移動し、カメラで折鶴をUPでとらえる。他方の折鶴も視野に入れ、二羽が横に投影される。ヒグマはゆっくりと膝を折って上体を沈めていく。同時に、カメラの視線も下っていく。
ヒグマが横の映像にカメラを向けると、フィードバック効果が生まれる。床すれすれに二羽の折鶴をカメラでとらえると、横の映像で折鶴が増殖する。正面の映像のバックが波の実写動画に変化する。木村の映像は踊り続ける。
清楚な交響曲が流れる。ヒグマのカメラワークは穏やかである。ヒグマは据え置きの小型カメラに切り替える。正面には波の実写動画と両目を強調したヒグマのモノクロ写真、孔雀の羽のようなCGと多彩に展開する。
正面にヒグマの顔のモノクロ写真が、ゆっくりとスライドされる。民俗音楽的曲が聴こえてくると、ヒグマは横のプロジェクターを塞ぐ。正面のスライドは続く。正面の映像は突如、はじめの波線CGとなる。ピアノ、シンセサイザー、ギターによるスローな曲によって、45分の公演は終了する。
今回ヒグマは先ず折鶴を伴って空間を行き来し、次に小型カメラを携えて細部を回り、最後に折鶴を増殖するという端的なパフォーマンスを行った。映像はヒグマの顔のUPから木村のダンス、そしてヒグマの顔へと戻った。
木村愛子は今年の1月、die pratze主催で開催された「新人シリーズ9」で新人賞を受賞し、8月2日と3日に神楽坂die pratzeでの公演を控えている。仕草から派生する運動がどのようにダンスに展開していくのかを、ヒグマの映像が掴み切っている。
慶野由利子、黒岩誠、嶋津武仁らの音源のミックスが公演を複雑にした。第一部の映像上映は、映像の可能性の考察が広がり楽しみが増す。これからも続けて欲しいところだ。

照明:坂本明浩
撮影:坂田洋一