ヒグマ春夫の映像パラダイムシフトVol.58

Visual Paradigm shif Vol.58 of Haruo Higum

海の波が揺らぎ、太陽は山に突き刺さる

2014年3月24日
会場:キッド・アイラック・アート・ホール
ゲスト:玉内集子(ダンサー)

映像パラダイムシフトVol.58より

報告:宮田徹也(日本近代美術思想史研究)

舞台左側中程に、白いワンピースが天井から吊るされている。ヒグマは舞台右側の空間に、二台のプロジェクターを向けている。舞台右壁中央下に、赤外線カメラが仕掛けられている。暗転し、公演が始まる。
ほの暗い照明が床を照らすと、玉内集子が後方壁面中央で、こちらに背を向けて立っていることが分かってくる。ヒグマは電子音を操作している。ディレイにより印象が遅延し、時間が過去へ引き摺られていく。
ヒグマは後方壁面に、太陽が昇る/沈む実写映像を投影する。海の波が揺らぎ、太陽は山に突き刺さる。玉内は少しずつ右肩を下げ、左肩を上げていく。映像は実写から沸き立つようなCGへと変化する。
玉内は右掌を下に向けながら、その手をゆっくりと掲げていく。肘を折り、指先は映像の中央に向けられている。その指を垂直に翳し、肘の角度を緩やかに閉じていく。映像は下から梢を見上げる実写と三つの小窓に揺らぐ加工された実写が重なる。
映像は水面に対する水平の視線を経て、再び見上げる構図に戻っていく。玉内は右手の甲の動きを肘、踵へ連動させる。玉内は時間をかけて、確実に踊っている。右手は床に近づくが触れることはなく、右側を向き右腕を水平に伸ばす。
映像は、蛍光色のオブジェが飛び交うCGと化す。玉内は体を彼方から此方へ向ける。映像には赤地に白いオブジェが飛び交い、大きな華が開いていく印象を与える。華は渦を巻き、太陽のようにも見えてくる。
玉内は掌を落とし、前へ一歩だけ歩を進める。ヒグマは、左壁面に赤外線カメラが捉えた玉内のライブの映像を投じる。玉内は手足を個別に語らせながら体を揺るがし、また一歩だけ進み、低い姿勢から垂直に延びていく。
ヒグマは後方壁面の映像を閉じ、遅延した音楽もフェードアウトし、まるでカーテンを引くとレールから漏れるような音が流れる。玉内は中央で首を擡げ、そのまま床に身を投じる。すると、赤外線カメラが至近距離で玉内を捉えることになる。
パソコンのキーを叩くような音が聴こえる。玉内は床を展開し、右肩を軸とし腰を引いて体を回す。白いワンピースに映像が映りこんでいる。ヒグマはライブ映像を閉じる。僅かな照明の中、玉内は床を回り続け、その姿勢のまま、床に背を付ける。

映像パラダイムシフトVol.58より

ヒグマは正面のライブ映像を再び開くと、泳ぐ金魚の実写映像と二重写しになる。玉内は床左端に大の字となる。ヒグマは再び遅延する音を奏でる。玉内は正座の体勢から堕ちる。映像は黒地に青と白の線が唸るCGに変化する。
立ち上がった玉内は舞台を廻り、舞台の右奥で体を開き、まとめ、解していく。カーテンのレール音が響く。映像のCGには蛍光色が含まれていく。玉内の感情がゆっくりと廻っていく。左奥の壁面に額をつけ、動くことがない。
玉内は次第に手足を漕ぎ、こちらを向き、強く体に力を込め、解放する行為を繰り返す。その様子を赤外線カメラの剥き出しの瞳が捉えている。ヒグマは手元のカメラに映像を映し込んでライブを壁面に投影する。
後方壁面の映像上部に、海外のパフォーマンスが映し出されている。下部のCGは黄土色の地に踏み潰された空き缶のようなCGが不規則にスライドされる。機械とも環境とも認識できる音が反復する。歩行する玉内は吊るされたワンピースの脇に到達する。
湧き出るようなCGの変化を玉内は見据え、体を崩し、集めていく。画面が4×3に分割された映像は、1910年代の未来派、ダダを彷彿させる。玉内は左手を心臓の高さに引き上げ、右手は畳んでは広げて弧を描くように膝を折って上体を沈める。
激しくなる機械音に呼応するように、肩と膝を振るわせていく。その場での全体の身体の素早い動作ではあるのだが、フォルムが残ることはない。後方壁面のCGは機械的で人工物のような印象を与える。
玉内は素早く展開する。よろめき、倒れるように重心を喪失する。音が突如消滅しても、玉内は続ける。ヒグマは映像を赤外線カメラによるライブに切り替える。玉内はgoとstopを多用し、緩急ではないシーンを形成していく。
ヒグマはライブ映像を閉じると、後方壁面に溶けていくようなCGが連続する。左側壁面には溢れるようなCGが投影される。玉内は姿勢を低くし、上を見る。全体に広がるCGはサイケデリックな色彩を帯びる。
垂直に身を委ねる玉内は空調に揺れる白いワンピースと同じように、その場で回る。CGは水泡上と化し、消滅と誕生を繰り返す。静止した玉内は背を反る。移動する車内から撮影された太陽を捉えるカラー動画が投影される。日が沈んでいく。そして昇っている。
細かく振動する音が強く生じる。玉内は足を大きく開き、鼓動を続ける。隆起する山の影が映像を支配する。玉内もまた、その一つとなる。映像と音が消えると照明が落ち、玉内はそのまま、50分の公演が終了する。
果敢に変貌を遂げるヒグマの映像に対して、玉内は持続を保ったように感じたが、もしからしたらそれは反転が可能なのかも知れない。そこに、このコラボレーションの面白さがある。

照明:早川誠司
撮影:坂田洋一