【ヒグマ春夫の映像パラダイムシフトVol.88 with 増田明日未】承前。ライヴの同時配信がないコロナ以前の時期にも、記録映像は撮影されていました。ダイジェスト版に編集された映像が、公演後のある時点で公開される機会も多かったのですが、今回の同時配信はそれらのケースとは意味も性格もまったく違い、ちょうど演劇から映画にメディアが移行するようにして映像がインスタレーション空間を離れ、作家にとってはより自由度の高い映像作品を、ネット上で即興的に創造していく機会を提供するものとなっています。これもまた映像パラダイムシフトの新段階といえるものでしょう。いきおい映像の身体性を感覚可能にするというテーマは後景に退き、ネット上のアーカイヴ映像では、身体の多層性を織り合わせたフラットな空間が出現することになりました。身体の隔離をテーマに踊られた増田明日未さんは、大きな透明ビニールシートに絡みながらのパフォーマンスを展開、ビニールを床に敷いてピクニックするように正座したり、全身をラップするように包みこんで床に横になったり、ビニールを片手に持って突き出し人に見立てていっしょに社交ダンスをしたり、上手コーナーから走りこんではシート上にダイヴする行為をくりかえしたりして踊られました。それ以外にも、ビニールから離れて踊ったり、上手端に設置されたカメラに向かって、これもコロナ下での会話禁止を逆手にとり、スケッチブックにマジックでメッセージを書きつけてはカメラに掲げてみせる場面──「何に」「見えましたか」「いつも」「何をどう」「見ているのでしょう」「今日は」「こわがらずに」「どうか私たちを」「見てください」と書いた最後に、うんうんとうなづく。文字を書いた画用紙は下手前の床に並べられました。──などを作られていました。複数のスクリーンが吊りさがる空間を、映像を縫うように回遊しながら、流れを途切らせることのないダンス。なかでもスクリーンの脇に出てその端に触れ、映像を支える被膜の身体性を感じさせた終盤近くの場面や、スクリーンの背後にすわる生身のダンサーとその前に投影されるライヴイメージのダンサーを別角度でとらえたカメラがオーバーラップ、キュビズム効果を醸し出した場面などが印象的でした。