ヒグマ春夫の映像パラダイムシフトVol.90 my portfolio


collaboration/隣の私

ヒグマ春夫(映像)『Farming-soul』×アベ レイ(ヴォイス)『隣の私』
日時:2021年10月23(土) 開演19:00 開場30分前
会場:アトリエ第Q藝術ホール
157ー0066 東京都世田谷区成城2-38-16( 小田急線・成城学園前駅より徒歩2分)
アトリエ第Q藝術・電話/tel:03-6874-7739
照明・早川誠司

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北里義之・批評

10月23日(土)成城学園前 アトリエ第Q藝術にて、ヴォイスのアベレイさんをゲストに迎えた<ヒグマ春夫の映像パラダイムシフト>第90回『collabolation/隣の私』を観劇。ベネチアンマスク、フードで頭を隠すように逆さまに着られた上着、オレンジのワンピースなどを小道具にした3場面で演じられるアベレイさんのヴォイス・パフォーマンス『隣の私』と、農具をテーマに「農の魂」を形象化したヒグマ春夫さんの映像インスタレーション『Farming-soul』をドッキングさせた公演。ステージ下手に設置された円型カーテン前のテーブルには、鉢植えの植物とタテに置かれた液晶ディスプレイが載り、上下左右が無化されたスクリーン上には、農具の車軸が、たったいま進化をはじめた生命体のような動きを与えられ、プランクトンやクラゲのような微小生物にも見えれば、『2001年宇宙の旅』の宇宙ステーションや『ゼロ・グラビティ』のスペースシップのような、現代科学技術の粋を集めたスペースヴィークルのようにも見えるものが、地球上ではありえない無重力空間をゆっくりと回転しながら浮遊してゆくという、聖なる世界のメッセージ性を帯びた「農の魂」が映し出されていました。これとは対照的に、ホリゾントに投影される映像は、パラダイムシフトの“過去”を刻印するもので、アベレイさんのライヴ映像を中心にしつつも、水上のアンコールワットを連想させるたゆたう農具マンダラの宮殿や、水紋が広がり雨粒が落ちる水面のオーバーラップ映像などが投影されていきました。アベレイさんのヴォイスもまた、キャシー・バーベリアンの現代音楽から出発しながら、体の深部とつながるフィジカルな重力を持つと同時に、地球上のすべての言語を廃棄していった先にある、概念を持たない言葉とでもいったような浮遊する言語をパフォーマンスする即興ヴォイスをされています。すべてのサウンドは、手から離れ、楽器から離れた瞬間に、人を自由にするようなある種の抽象性を帯びますが、それでもそれは即興ヴォイスが固有の語法を持つように、音楽構造を支えるヴォキャブラリィから離れていないように思われます。アベレイさんのパフォーマンスは、歌と声の境界線を遊ぶということもされますが、本質的には、声が発せられた瞬間に永遠に止まったままでいる決意とともに、帰属する場所のない声をつなげていく(隣接関係に置く)行為といえるでしょう。100回公演をめざす<映像パラダイムシフト>も、いよいよ最終コースをまわり、これからの一回一回で映像がどう進化していくのか楽しみです。ここまでくると、映像技術の時代をヒグマさんの作品とともにアートで生きた感慨があります。同時配信の映像を「チャンネル第Q藝術」で見ることができますが、こちらはライヴ公演とは別様の映像コラージュ作品になっています。


ヒグマ春夫(映像)『Farming-soul』×アベ レイ(ヴォイス)『隣の私』 /撮影・Macoto Fukuda


Placeholder image ヒグマ春夫(映像)『Farming-soul』×アベ レイ(ヴォイス)『隣の私』 /撮影・Macoto Fukuda

撮影・楠野裕司


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