ヒグマ春夫「お面・Omen~次元のペルソナ~」
cast 杉山佳乃子(dancer)music 佐藤慶子(composer)
カラフルでレディメイドなキャラクターお面から、ひょっとこ、おかめ、心を消すことにより魂を表す能面まで。魂の内と外、人工知能との共存といった顔の見えない近未来社会を映像、ダンス、音楽のアートで表現。
~あなたも心のお面を、はずしてみませんか~
2017年1月19日(木)
マチネ・15:30スタート(アフタトークあり)
ソワレ・19:30スタート
会場:霞が関ナレッジスクエア・スタジオ
千代田区霞が関3-2-1 TEL.03-3288-1921/FAX.03-5157-9225
霞が関コモンゲート 西館奥エスカレータ上がる
北里義之[評]
【加藤みや子+佐藤慶子+ヒグマ春夫『お面・Omen〜次元のペルソナ』@霞ヶ関ナレッジスクエア】承前。音楽の佐藤慶子さんは、ダンサーの動きを注視しながら、大きな板を不規則に鳴らしたりレインスティックを傾けたりして音を出し、ソロの場面では、ウードの爪弾きで「枕草子」を歌い、後半は録音といっしょにコギリでミニマルなリズムを奏でるというように、共演者の邪魔にならない環境的な音の配置をされていました。ヒグマさんの映像は、白の衣裳に対応して、前半を雲や水の流れなど自然の映像を素材に青と黄緑を主体にした配色で、また後半では、真紅の衣裳に応じて赤と黄色のアブストラクトな文様が動くというように、すべてを色に解体するパフォーマンスをされていました。原色の色彩を即興的にアレンジしていく映像は、かつて「サイケデリック」と呼ばれ、いまでは「アシッド」と呼ばれるような、脳髄にダイレクトに働きかける直接性を持つものです。色彩はそれ自身が意味を持つというシュタイナーの色彩論が思い起こされるところ。さらに動くダンサーのライヴ映像は、他の映像の上にオーバーラップされるというより、解体していく色彩のただなかにはめ込まれるようにして登場するという技術的な「進化」を見せ、ダンサーをとらえるカメラの角度やフレーミングも、監視カメラの性格を脱して洗練されたものになっていました。
【加藤みや子+佐藤慶子+ヒグマ春夫『お面・Omen〜次元のペルソナ』@霞ヶ関ナレッジスクエア】承前2。第一部で小面の面をかぶって登場した加藤みや子さんは、観客席に向かって伸びる橋懸かりのような張り出し舞台のうえに昇り、ヒグマさんの映像が投じる色彩を全身に受けながら、内面から感覚を起こすようにして舞われました。羽織るように着ていた白い衣裳を脱ぎ、その下の真紅の衣裳だけで踊った第二部は、映像とは別に床にスポットを落とす照明が入り、張り出し舞台からアリーナに降りた加藤さんは、上手の白壁も使いながら、映像の光を回避するように暖色のライトのなかを大きく動くという展開。笑う仏像のような、埴輪のようなお面をかぶり、縁日で売られているおかめ・ひょっとこ・ウルトラマンのお面を紐で一列につなげて肩にかけて舞ったのが第三部。最後は、お面をはずして細長い舞台のうえに横になった加藤さんが、寝返りを打つように左右に身体を転々とし、動かなくなったところで暗転となりました。音と光と身体のパフォーマンスはそれぞれに自律性が高く、テーマとなった「お面」と身体のかかわりに独自性のあらわれた公演でした。■
写真撮影:早川誠司