ミメーシスする身体・反復の精神

●シリーズミメーシスする身体-Vol.3
 1998年2月9日〜14日
 会場:ギャラリー・スペース21
   
 ビデオ・インスタレーションとパフォーマンス
  「変換と変容」 
 作・構成・映像:ヒグマ春夫
 ゲスト出演:尾山修一(Sax)
       平石博一(作曲家)
       室野井洋子(舞踏家)
 主催:CT-Project
 助成:芸術文化振興基金助成事業
 協力:ギャラリー・スペース21

ミメーシスする身体

 白い寒冷紗を天井から床まで何枚も吊り下げた。観客はその一枚一枚の間を通り、寒冷紗越しに作品を鑑賞する。実は、こういった空間は映像インスタレーションになっていて、寒冷紗で立体的に構成されている空間に向かって映像を投影している。映し出される映像は、自身をデジタル化した映像であったり、アリが這い回る映像だったり、CG画像であったりとその種類は50種類もある。音は平石博一氏の作曲した音である。しかし、全てに音が有るというのではない。音があったり無かったりするこの空間は結構楽しめる。観客は自身の身体に映像を映し手を動かしたり、立ったり座ったりしている。この作品は、立体的な映像の中を歩くことによって、インスタレーションを体感することになっている。こんな空間でサックスの尾山修一が演奏し、室野井洋子が舞踏し、平石博一が電子音をながした。隣の部屋には、ヒグマ春夫が制作した「CruzBox」が展示してある。
    
「覗き見が共有されようとする瞬間」の発想から生まれた、作品「CruzBox」は、1998年2月9日から14日まで、新橋のギャラリー・スペース21 に展示した。確かにこの作品は、展示する空間の大小によって様々な展開の可能がある。インスタレーションとしも成立するし、一個のオブジェ作品として鑑賞することもできる。「CruzBox」に描かれている絵は、一度映像として処理したデジタル画像である。そして、その映像は、ビデオ・インスタレーションやパフォーマンスに使われている。制約された時間軸で展開する映像作品を、「CruzBox」は自由な時間軸での鑑賞を可能にした作品である。
    
 クルスとは、十字架を意味する言葉だが、CruzBoxとは、CruzとBoxを一緒にした造語である。日本の紋所の中には、十字架を紋章化したものもある。それを久留子と呼んでいる。しかし、CruzBoxは、十字架やシンボリックな紋章とは意味を異にしている。
    
 実はCruzBoxとは、箱の展開からの発想によって生まれたのである。その起源は覗き見するという行為から始まっている。覗き見とは、とても個人的な行為であり、覗き見をした人にしかその実体は解らない。しかし、実はそうではないらしい。フィラデルフィア美術館にあるマルセル・デュシャンの「落ちる水」(1946-66)という作品は、節穴から内部を覗いて見ることによつて成立する様になっている。覗いて見ると女性の裸体が滝を背にして仰向けになっている様にも見える。だかしばらく覗いていると不思議な気持ちになる。実はこの作品が置かれている場所は美術館であり、わたしの後には何人もの観客が順番を待つているのである。実はこういつたお客さんがわたしが覗いている様子を後ろから覗いているのではないか、という様な事が段々気になりだす。覗き見という個人的な行為が共有されようとしている瞬間に出くわすのである。「覗き見が共有されようとする瞬間」この感覚は何時もわたしの頭の隅にあった。
    
 1995年、世田谷美術館でグループ展があり、わたしは「I and You」という作品を出品した。この作品は、ドイツ制の大きなゴミ入れを使ったものである。そのゴミ入れの中には、小さなモニターと画面を拡大する。大きなレンズが設置してある。周りには、沢山の昆虫のイラストと都市の写真が35ミリのマウントに収められ端を白い糸で結び、あたかも昆虫が床を這い回るかの様に100枚以上ちりばめてある。床のところどころには、2〜3センチに切り刻んだ藁がちりばめてある。わたしは、観客がどんな対応をするか遠くからじつと作品を覗いていた。ゴミ入れの蓋のところに直径2センチにくりぬかれた穴があり、そこから沢山の観客が中を覗き込んでいた。
    
 「I and You」の様な中を覗いて観る作品は、佐倉市立美術館での企画展やIzumiwakuProjectの会場にも展示した。 IzumiwakuProjectでは、ホームページとのリンクやリアルタイムの映像も加わった。ビデオ・カメラは、覗いている観客の頭を撮る様に設置し、その撮った像を床の上のモニターに写しだした。覗き観している観客は、その様子がモニターに写されているにもかかわらず自分の目で確かめることは出来ない。覗き観している人は、耐えずどこかで誰かに覗かれている。そんな気がする作品である。
    
 ギャラリー・スペース21に出品した覗き観の作品(1996年)は、「Transform of Duchanp」として展示した。このときは、覗き見の作品と壁面にはCruzBoxの展開写真も展示した。